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フィレンツェにあるシルク工房 2/4 : 歴史

前回に引き続き、シルク工房をご案内します。ご紹介するシルク工房は「Antico Setificio Fiorentino(アンティコ セティフィーチョ フィオレンティーノ)」といいます。 前回は工房のショールームをご案内していますので、今回初めてお立ち寄り下さった方は、 こちらももぜひご覧くださいね。

今回は、「工房の歴史」と「実際に生地を織っている工場内」をご案内するつもりでしたが、歴史の文章が長くなってしまい、前後編ではなく4部構成にしました。 今回は歴史です。 複雑になってしまい、すいません。 工場内見学を楽しみにしていた方、もうちょっと、お付き合いください。

アンティコ セティフィーチョ フィオレンティーノの歴史

フィレンツェの中世時代には、数多くの商業組合が形成されました。その1つに「アルテ・デラ・セータ(絹織物組合)」があります。1300年代から1400年代に全盛を迎え、フィレンツェの貴族、豪華商人、欧州の王族、貴族からの受注を預かっていました。 ウフィッツィ美術館に見る、ルネッサンス時代の絵画の貴族の服装にも、豪華絢爛なものがありますが、これらも、絹織物組合、そしてもう1つのフィレンツェの重要な組合、毛織物組合が作ったものです。

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これがアルテ・デラ・セータ(絹織物組合)の紋章です。


時は移って1600年後期。フィレンツェの貴族達がシルク生産場所を1つにし、分散していた機械や各邸宅に保存されている生地のデザイン画を集中させることにしたのです。これらの貴族には、ゲラルデスカ、プッチ、バルトロッツィ、コルシーニ、アグレスティなどが含まれていました。

そして、このシルク工房に、工房を設立した貴族達の受注をすべて引き受けさせたのです。貴族達は、生産させた生地を利用して、調度品、サロン、私有礼拝堂などを装飾したり、結婚や特別な行事のための調度品の装飾や衣類に仕立てさせていました。

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中世時代からルネッサンス時代にかけてのシルク工房の様子。


この工房は、1786年から「Antico Setificio Fiorentino(アンティコ セティフィーチョ フィオレンティーノ)」の名で会社として機能し始め、それが現在でも続いています。この年の6年前の1780年には、当時のトスカーナ大公ピエトロ・レオポルドにより、量販生産ができる最新式の機織り機が導入されました。いまでもこの機械は職人達の手により現役で動いています。

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サンタ・マリア・ノヴェッラ教会のルネッサンス時代のフレスコ画。
ご夫人達は、絹織物組合と毛織物組合が作ったメイド・イン・フィレンツェ
の豪華なドレスを纏っていました。


さらに時は移り1954年。フィレンツェの伝統と文化に愛情を抱く、エミリオ・プッチ侯爵を筆頭とした貴族達が、この会社の責任者になります。それに伴い、海外へも、この会社の存在を知らしめることになります。

エミリオ・プッチの跡を継いだアレッサンドロ・プッチ侯爵がさらに力を入れ、昔の機織り機の修復を行わせ、いまも現役で動いています。そしていまでもアンティコ セティフィーチョ フィオレンティーノは、プッチ侯爵家の活動の一旦を担っており、「世界で1つ」の生地を作り続けています。

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こちらはブランカッチ礼拝堂のフレスコ画。マゾリーノ作。
緑の服のデザインは、この工房のデザイン画の1つとして記録されています。


機械はいまでも、1700年代と1800年代のものを使っています。この工場に足を踏み入れるということは、200年から300年を遡りタイムスリップすることなのです。 

お待たせしました! それでは、次回は工場内に足を踏み入れましょう。 

Antico Setificio Fiorentino S.P.A.
Via L. Bartolini, 4 50124 Firenze
Tel +39 055 213861 Fax +39 055 218174

開店時間:月~金 9時~13時/14時~17時
ショールームのある工房内には呼び鈴を押して入るようになります。

*お断り:掲載している写真はすべてWikipediaのものを利用しました。

** わたしのHPの  「貴族の御用達 職人工房とアートの関係」で、このような、貴族と職人工房の関係を旅する企画があります。 興味のある方はご連絡くださいね♪ **






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フィレンツェにあるシルク工房 1/4 : ショールーム

去年の12月に予約を入れていた、待ちに待ったシルク工房の見学の日が来ました。 これはフィレンツェ市が主催した工房見学で、去年の10月下旬頃から行われていたもの。過去には同主催のメンズスーツの工房見学 へ行ってきました。

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工房のネームプレート


12月に予約をいれた時点で、すでにほぼ予約で埋まっていたこの工房。人数限定で15名。ショールームには誰でも行けるものの、工房のハートである生地を作る工場へはなかなか入ることができません。 機械がところ狭しと置かれているので、見学者に怪我をさせたり、機械を壊されたら大変という理由と、なによりもまず、職人さんの仕事を中断させてしまうことにより、生産が一時ストップしてしまうからです。 

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工房の外観


案内してくれた工房のスタッフからも、「めったに見学を許可しないので、皆様はラッキーですよ。」とおっしゃっていました。 過去に何度かお客様をショールームへご案内しましたが、この工房の存在を知った時から、「一度は工場へ足を踏み入れたい。」と強く願っていたのが、やっと現実になりました! 指折り数えて待ったシルク工房見学の日。

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呼び鈴を押して門を開けてもらいます。 特別なお客様になった気分♪


中心街からアルノ川を渡り徒歩10分ほどで辿り着くこの工房は、中心街の賑やかさからは想像できないほどに、静寂な緑に囲まれた場所にあります。 聞こえるのは機織りの音だけ。 このシルク工房は「Antico Setificio Fiorentino(アンティコ セティフィーチョ フィオレンティーノ)」といいます。 フィレンツェの伝統的なシルク工房。という意味になりますでしょうか。 歴史については後編に譲るとして、まずは、ショールームへとご案内しましょう。

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工房の中庭。とてもフィレンツェの中心街とは思えない、
小鳥がさえずる緑豊な空間です。


ショールームには、工場内で生産された各種多様な生地が陳列されており、クッションや巾着、サシェなども販売しています。

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このような部屋が生地の特徴に分けて3室あります。


アンティコ セティフィーチョ フィオレンティーノの生地のデザインは、古文記録にも登録されており、そのなかのいくつかは現在でも製作されています。そのほかのデザインに関しては、お客様のリクエストにより製作可能ということです。

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1ミリづつ織った生地の様々な模様。 デザインと光沢がため息がでるほど美しい。


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生地販売だけじゃなく、商品化したものもショールームに展示してあります。


生地の模様には様々なものがありますが、ルネッサンス時代のダマスク模様、年代の異なるシルクと麻で作ったブロケード(薄織り錦)、1600年代のシルク製ランパ織などがあります。 用途としてはインテリアが主で、モダンそしてクラシックスタイルのインテリアのどちらにも対応しています。 


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古文記録にも登録されている、さまざまな織りの生地です。


薄いシルクの生地は、シャツや結婚式用のドレスを作られる方も多いということです。ルネッサンス時代のタフタでも特に「エルミジーノ」というものは、1種から2種の糸を平織りしたもので、糸が極細のため、生地がとても薄く、さらに光によって多彩な色に見えます。この特徴はイタリア語でカンジャンテと言いますが、日本語では玉虫色と表現されることでしょう。 気になるお値段は、メートルが約250ユーロから。 


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この生地は赤へ緑へと、光の差し方により色が変幻に変ります。うつくしい~。


これらの生地を使ったドレスは、ルネッサンス時代のフレスコ画や絵画に見ることができます。ウフィッツィ美術館所蔵のミケランジェロ作の「トンド・ドーニ」の聖家族が身につけている服も、やはりエルミジーノが使われているのでしょう。

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これがミケランジェロ作の「トンド・ドーニ」です。 
生地が光を反射してメタリックのような、輝くようなエフェクトを醸し出しています。


第二次世界大戦で損傷を受けた歴史ある邸宅の修復も行い、そのなかにはローマのクイリナーレやパラッツォマダマも含まれているそうです。またシエナの祭り「パリオ」に使う旗もこの工房で作っています。世界に目を向けると、デンマーク女王やモナコ王室も顧客ということ。さらに特筆すべきは、1999年にロシアのクレムリン宮殿の修復に呼ばれたことでしょう。壁に装飾されていた生地を研究して、出元がこの工房だと分かったそうです。

余談ですが、このクレムリン宮殿修復に関わった職人は、ほとんどがトスカーナ人だったということです。なかでもフィレンツェではこの工房を始め2~3の工房が呼ばれていました。 すごいぞフィレンツェの職人さん達! 

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こんな風に、ソファやクッションにも使えます。


Antico Setificio Fiorentino S.P.A.
Via L. Bartolini, 4 50124 Firenze
Tel +39 055 213861 Fax +39 055 218174

開店時間:月~金 9時~13時/14時~17時
ショールームのある工房内には呼び鈴を押して入るようになります。

次回は工場内をご案内します。 どのように生地が織られるのでしょうか。