前回の続きです。
ファサードもさることながら、
この教会には、内部にある説教壇を見るためにやってきました。
それがこれ。
向かって左側の、彫刻で装飾されているのが目的の説教壇。

ローマ時代が崩壊し、混沌とした中世時代を迎えたイタリア。
人々が生きるために生きていた時代。
食べることや身を守ることが最重要だった暗黒の時代。
そんな状況から、少しずつ抜け出して、
人々の生活が少しずつ盛り返したとき、
再び目が向けられたのが、芸術。
ひっそりと佇むサンタンドレア教会には、
ピサの洗礼堂の洗礼盤やシエナの大聖堂のデザイン&製作を手掛けた
ジョヴァンニ・ピザーノが作った説教壇が残されています。
そして、説教壇の表面には、新約聖書のストーリーが
まるで空白を恐れるかのように、ぎっしりと、
隙間なく彫られています。

ちなみに、お父さんのニコラ・ピザーノは
ピサの大聖堂の説教壇を作っています。
彼らの名前や業績だけを聞いても、
ほ~そうなんだ。
なんとなく、すごそうだけど、なにがすごいの?
え? 誰?
う~ん・・・
なかなかストンと腑に落ちないですよね。
実は彼ら、中世時代に一筋の光を投げかけた
希有な彫刻家なんです。
自称「彫刻家」のミケランジェロが活躍した時代より約300年前。
神、キリスト、マリア、聖人。
新約聖書に登場する人物を、感情の持たない描写、
すなわち、シンボルのような描写で表現することが主流だった時代。
前回も紹介したような、ヘタ上手絵的な感じ ↓

それを、彼ら親子は、苦しみや悲しみや喜びなどの喜怒哀楽の
人間的な感情を、彫刻で表現した芸術家。
その時、13世紀。
古代ローマ時代の芸術が忘れ去られてから数百年。
やっと新たに、芸術の第一歩を踏み出した作品の1つです。
東方三博士が幼子キリスト誕生のお祝いにやってくるシーン

後ろ二人の三博士が、顔を見合わせて、にっこりしている優しい表情。
新しい王が生まれたと聞いて、ヘロデ大王が
キリストと同年代の2歳以下の男児を殺害させているシーン

今まさに、兵士が赤ちゃんを母親の手から奪い殺害しようとしているところ。
母親の必死の表情、苦しむ男児、冷徹な兵士。
死後、天国行きと地獄行きに分けられる最後の審判のシーンの一部。

天使が天国へ行く死者を迎えに来ています
死者が、なんて穏やかな表情をしているんでしょう。
この説教壇は1301年に完成したということです。
1200年代後期は、フィレンツェの大聖堂なども建立した時期。
当時のバブル現象?!
感情に訴えかけた作品は、わたしの心にビンビン響きました。
当時の人々にとっては、もっともっと強烈だったはず。
12世紀の昔も、21世紀の今も、
人間の感情って、同じなんですね。
** アクセス **
フィレンツェからは電車でも行けます。
毎時1本あり、所要時間は片道約40分。切符は約3ユーロ。
あまり知られていない小さな街ピストイア。お勧めです。
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1100年代に建立されたロマネスク様式の
La Chiesa di S.Andrea(サンタンドレア教会)。
ピストイアにあります。

緑と白のダンダラ模様は、大理石で出来ています。
どこから切っても緑色。 どこから切っても白色。
大理石はトスカーナ地方で取れたもの。
だから、もちろん、資源は近場から調達したものです。
靴下の下がった広場や黒装束の君がいる板絵も、
ピストイアのもの。
そもそも、このサンタンドレア教会を訪れるために
ピストイアへ足を運んだのです。
1100年から更に時間を遡り、
600年の初期キリスト教時代に建立されたようです。
その頃はサンタンドレア、すなわち、
聖アンドレアを崇拝する傾向があったために、
この教会もこの聖人の名前が付けられている。
と説明にありました。
→ 聖アンドレアの詳細はこちらから。600年代からある教会。ざっと1500年前?
教会と対峙して、
なんか、自分がす~っごく、ちっぽけに感じちゃう。
しかも、小さな街ピストイアの、車が走る道路沿いに、
何でもない風に、違和感なく街の景色に溶け込んでいるのが、
いかにもイタリア的。

ファザードの細かいところを見ていると、なんとも可愛い。
といっては失礼かもしれないが、ウマ下手絵のようなユニークさ。
なんともユーモアがあっていいじゃあないですか~。
彼は依頼人。
全身を黒い装束で覆い、外から見えるのは祈る両手と目だけ。

お察しの通り、身元不明にするために、全身を隠しています。
なぜ?
いまに生きる私たちは、
まるで悪いことをした人のように危ぶみますが、
黒装束に覆われているのは、恩恵を施して、なにも求めない。
無償の恩恵や愛を与えるため。
だから、どこの誰だかわかないように、
自分を覆い隠しているのです。
今回登場した黒装束の君は、絵の依頼人。
依頼人は、絵のなかに、
「自分が依頼したんだよん。ほらこれが僕。」
と、絵のなかに登場することがあります。
が、黒装束の君は、どこまでも、 どこまでも、謙遜に。

堂々と大きく描かれている聖母子像とは対照的に、
ち~~っぃちゃく 両端に描かれている依頼人。
左右にいるということは、きっとご夫妻なんでしょう。
欧州の中世時代は神中心の世界。
そのため、中世スタイルの絵では、
依頼人が黒装束は纏っていなくても、
大抵、このように、メインの絵の外に小さく描かれています。
ピンク色とのコントラストといい、
ちょっとシュールで、まんがチック。
いいねえ、かわぃぃねえ。
ルネッサンス時代になると、神中心から人間中心に置き換わり、
遠近法などが取り入れられたことによって、
いまのわたしたちの感覚に近い絵画や彫刻を見ることができるけど、
中世時代の芸術は、宗教が題材のものばかりだし、よくわかんない。
と思われるむきがありますが、ちょっと目先を変えてみると、
意外とユニークで可愛くて、面白いんですよ~。
立ち姿が美しい、真っ白な、
プーリャのロマネスク様式を代表する大聖堂

この日は結婚式が行われていました。

教会に光が差し込み、
新生活を初めるカップルを祝福しているかのよう。

この教会の地下はすべて地下聖堂になっていて、壮観。
ひんやり冷たく、静かで、厳かな雰囲気。

外の雑踏とは別世界。
中世時代の神中心の生活のなかで、
この空間の効果は絶大だったんじゃないかしら。

天井のフォルムも美しい
彩色されていない内部では、色の代わりに、
光と陰が空間を演出している、モノトーンの世界。
それがまた、シンプルで、いいんだな~

正面には、ロマネスク様式の特徴の1つ。
動物の彫刻で装飾されています。
見上げっぱなしで、首は痛くなるけど、
1つ1つの表情が異なっていて、
見ていてまったく飽きない動物達

この大聖堂、どこにあるかというと、

海のすぐ傍。
紺碧の青い海と空。
広々とした広場に凛と立つトランニの白い大聖堂。
あまりにも美しい。
この空間演出、誰が考えたんだろう。